「エンジンは終わるのか?」という問いの、その先へ
「エンジンの時代は終わるのか――」。
ここ数年、取材の現場でも、そして一般の報道でも、繰り返し耳にするフレーズだ。電動化の加速、各国の規制強化、そしてメーカー各社の戦略転換。そうした流れの中で、この問いはある意味“既定路線”のように語られてきた。
ただ、今回のAICE勉強会で提示されたのは、その単純な二項対立ではなかった。むしろ、「終わる/終わらない」という議論そのものが、本質から少しずれているのではないか――そんな印象を受けた。
大切なのは、内燃機関という技術をどう位置づけ直し、どのように社会の中で役割を持たせていくのか。そして、それを担う人材をどう育てていくのかという視点だ。
言い換えれば、「技術」と「人」の両輪をどう回していくか。今回の勉強会は、その両方に丁寧に向き合う内容であり、これまでの議論を少し先へ進めるきっかけになったように感じた。
開催概要と会場の空気
2026年4月20日、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)の会議室で、AJAJ向け勉強会が開催された。
会場には、完成車メーカー、研究機関、大学関係者、そして我々ジャーナリストが顔を揃える。立場の異なるプレーヤーが一堂に会することで、単一の視点では見えない“全体像”が自然と浮かび上がってくる。
冒頭の説明から感じたのは、「建前ではなく、本音ベースで共有しよう」という空気感だった。数値やデータはもちろん提示されるが、それ以上に印象的だったのは、課題や悩みも含めて率直に語られていた点だ。
これまで数多くの説明会や発表に立ち会ってきたが、ここまで“途中経過”を開いて見せてくれる場はそう多くない。その意味でも、この勉強会は単なる情報共有にとどまらず、“考えるための場”としての価値を持っていたように思う。
AICEのスタンス――現実に根ざしたシナリオ
AICEの基本スタンスはシンプルでありながら、非常に現実的だ。カーボンニュートラルの実現に向けて、内燃機関を排除するのではなく、どう活かしていくかを考える。
提示された将来シナリオでは、日本の電力供給の制約を踏まえ、BEVの普及には一定の限界があるとされる。その結果、2050年時点でも内燃機関搭載車は一定数残るという見通しが示された。
さらに興味深かったのは、ライフサイクルアセスメントの視点だ。車両単体ではなく、発電から走行までを含めた全体でCO2排出量を評価すると、日本の電源構成ではPHEVやHEVがBEVと同等、あるいはそれ以下となるケースもあるという。
この話は、単に技術の優劣を語るものではない。社会インフラやエネルギー事情と組み合わせて考えることで、はじめて見えてくる“現実的な選択肢”の一つだと感じた。
電動化+燃料という“現実解”
AICEが示しているのは、電動化と燃料を組み合わせたアプローチだ。
高効率HEVや小容量バッテリーのPHEVに加え、バイオ燃料やe-fuelといったドロップイン燃料の活用。既存の車両を活かしながらCO2削減を進めていくという考え方である。
ここで鍵になるのは、“時間軸”の捉え方だろう。理想的なエネルギー構成が整うまでの移行期間において、何が最も現実的で、効果的なのか。
物流の現場を見ていると、この視点の重要性はより実感として理解できる。すべてを一気に置き換えることは難しい。だからこそ、「今できる最適解」を積み重ねていく必要がある。
AICEの議論は、その現実にしっかりと根を張っている印象だった。
人材育成――研究と教育の融合
今回の勉強会で強く印象に残ったのが、人材育成事業である。
AICEでは、産業界のニーズを起点に研究テーマを設定し、大学と共同で研究を進めている。その中心にいるのが学生だ。
さらに、企業エンジニアとのレビューや議論を通じて、研究は少しずつ磨かれていく。このプロセスは、単なる知識の習得というより、“実践の中で学ぶ”という感覚に近い。
印象としては、「教育」というより「育成」。与えられるのではなく、自ら考え、試し、修正していく。その積み重ねが、確かな力になっていくように見えた。
現場で鍛えられるということ
レビューの場では、学生と企業エンジニアが対等に向き合う。
そこで交わされるのは、「なぜそうなるのか」「他に方法はないのか」といった、本質に踏み込む問いだ。そのやり取りの中で、研究は少しずつ具体性を帯びていく。
解説を聞いていて思ったのは、“現場での経験”が人を大きく成長させるということだ。AICEの取り組みは、その環境を意図的に用意している点に価値があると感じた。
人材不足という構造的課題
一方で、課題として強く認識されているのが人材不足である。
工学部志望の減少、博士課程進学率の低下。さらに、エンジン分野に対するイメージの変化も重なり、研究人材の確保は年々難しくなっている。
これは単なる人数の問題ではない。将来的に産学連携をリードしていく人材、いわば“橋渡し役”の不足にもつながっていく。
短期間で解決できる問題ではないが、確実に向き合う必要があるテーマだと思う。
もっと早い段階からのアプローチを
ここで改めて感じたのは、「入口」の大切さだ。
学生になってからでも遅いわけではないが、その時点で興味がなければ、選択肢として浮かびにくいのも事実だ。
今回の話を聞きながら、より若い世代――小中学生や高校生の段階から、乗り物やエンジンに触れる機会を増やしていくことの重要性を改めて感じた。
例えば、分解してみる、動かしてみる、音や振動を体感してみる。そうした体験は、知識というより“感覚”として残る。
そして、その小さな興味が、後の進路につながっていくこともある。「最初の一歩をどうつくるか」。そこにヒントがあるように思えた。
試行錯誤の現場
AICEでは、大学イベントやオープンキャンパスなど、さまざまな取り組みが進められている。
実車展示やエンジニアとの交流は高い効果を持つ一方で、準備やコストの負担も小さくない。
「やれば響くが、続けるのが難しい」。そのバランスにどう向き合うかが、これからの鍵になりそうだ。

伝えるという課題
技術は存在する。ただ、それが伝わらなければ意味を持たない。
内燃機関に対するイメージは、必ずしも現実と一致しているとは言えない。だからこそ、どう伝えるか、どこまで届くかが重要になる。
この点は、ジャーナリストとしても改めて意識していきたいところだ。
懇親会――熱量が交差した時間
勉強会後の懇親会は、約2時間にわたって行われた。
立食形式の会場では、時間が経つにつれて自然といくつかの輪が生まれ、あちこちで会話が広がっていく。テーマはさまざまだが、どのテーブルでも共通していたのは、どこか前向きな熱量だった。
- 「やっぱり、最初に触れる体験がないと難しいよね」
- 「エンジンって言葉自体、もう少し伝え方を工夫したほうがいいかもしれない」
- 「企業単体ではなく、横でつながっていくことが大事だよね」
そんなやり取りが自然に交わされていく。
いくつかのテーブルを回りながら話を聞いていると、立場は違っても問題意識は驚くほど近いことに気づく。そして、それぞれが自分の立場で何ができるかを真剣に考えている。
形式ばった会議ではなかなか出てこない率直な言葉が交わされるこの時間は、とても印象的だった。
何より、誰一人として“他人事”として語っていなかったこと。それぞれが当事者として、このテーマに向き合っている空気があった。
その雰囲気こそが、今回の勉強会の価値を静かに物語っていたように感じた。
現場から見えたこと
AICEの取り組みは、技術、人材、社会という複数の要素をつなぎながら、内燃機関の未来を丁寧に描こうとしているように見える。
課題は決して少なくないが、その一つひとつに正面から向き合い、試行錯誤を重ねている点には、大きな意味がある。
「エンジンは終わるのか」という問いは、すでに次の段階に移りつつある。いま問われているのは、「どう未来につなげていくのか」ということなのだろう。
そのヒントは、今回の勉強会のあちこちに、静かに散りばめられていたように思う。
※詳細資料は限定公開となっていますので、会員の方は会員ページで確認してください
| ■参加者18名(敬称略、五十音順) |
|---|
| 有元正存/池田直渡/石川真禧照/大音安弘/岡崎五朗/桂伸一/菰田潔/鈴木直也/高山正寛/竹花寿実/西村直人/松田秀士/桃田健史/森川オサム/諸星陽一/山崎明/山城利公/吉田由美 |



