日産自動車CEOエスピノーサ氏とAJAJメンバーとの意見交換会

日時: 2026年5月21日(木) 15:00〜16:30
場所: 日産本社

「GT-Rは絶対に終わらせない」──日産CEOイヴァン・エスピノーサ氏が語るスポーツカー復権への思い

5月21日、日産自動車本社で、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員とのラウンドテーブルが開催されました。登壇したのは、2025年4月にCEOへ就任したイヴァン・エスピノーサ氏です。

日産自動車CEO イヴァン・エスピノーサ氏

現在の日産は業績改善という大きな課題に直面しています。しかし、この日の対話で語られたのは数字や経営再建だけではありませんでした。GT-RやフェアレディZ、さらには復活への期待が高まるシルビアなど、クルマ好きなら思わず耳を傾けたくなる話題が次々と飛び出しました。

「イヴァンと呼んでほしい」から始まった率直な対話

ラウンドテーブル冒頭、エスピノーサ氏は自身について次のように語りました。

「私は本当にクルマが大好きです。人生をかけてきました。今日はどんな質問にも可能な限り率直に答えます」

日産自動車CEO イヴァン・エスピノーサ氏

さらに、「CEOではなくイヴァンと呼んでください」と提案したことで、会場の空気は一気に和らぎ、終始フランクな雰囲気の中で議論が進みました。

その姿からは、経営者というよりも一人の熱心なカーガイとしての一面が強く感じられました。ここからは、それにならってCEOをあえて「イヴァン」と呼ばせていただきます。

日本は日産のホーム市場

日本市場についてイヴァンは、「日本は私たちのホームです。ここで最高の会社になる責任があります」と力強く語りました。

技術開発もデザインも日本が中心である以上、結果について言い訳は許されないという考えです。また販売についても、「数字は目標ではなく結果」と説明。ユーザーに支持される魅力的な商品を生み出せば、業績は後からついてくるとの考えを示しました。

スポーツカー復権の理想形は「GT-R」「Z」「シルビア」

今後の日産を語るうえで、イヴァンが特に熱を込めたのがスポーツカー戦略でした。

その理想は、「GT-R」「フェアレディZ」「シルビア」の3車種体制だといいます。それぞれ異なる役割を持ちながら、日産らしさを象徴する存在として位置付けているのです。

中でも最も強い決意を感じさせたのがGT-Rについての発言でした。イヴァンは、「GT-Rは日産だけでなく、自動車業界全体のアイコンです。継続しなければなりません」と断言したのです。

意見交換会 風景

一方で、次期GT-Rの開発には大きな課題もあります。それは、「圧倒的な性能」「2+2レイアウト」「1,000万円前後という価格帯」の3つを両立させなければならないことです。これについてイヴァンは、「仮に2,500万円で作れたとしても、それはGT-Rではありません」と説明しました。

この言葉からは、高性能でありながら手が届くスーパースポーツというGT-Rの哲学を守ろうとする強い意志が伝わってきました。

フェアレディZは純粋なスポーツカーとして進化

フェアレディZについては、GT-Rとは異なる存在として説明しました。Zに求められるのは価格的な手頃さではなく、純粋なドライビング性能だといいます。

「現在のZは非常に良いクルマです。そのコンセプトを継承しながら進化させていかなければなりません」

つまり、GT-Rが技術の象徴なら、フェアレディZは運転する楽しさを体現するモデルという位置付けです。

「ぜひ作りたい」シルビア復活への本気度

中でも最も印象的だったのは、シルビアに対する強い熱量でした。

現在シルビアはラインアップに存在しませんが、イヴァンは「シルビアは特別な存在です。他とは違います。個人的にはぜひ作りたいクルマです」と語り、復活への強い思いを隠しませんでした。

しかし、その実現は容易ではありません。衝突安全基準の強化によって軽量ボディの実現が難しくなり、かつてのシルビアらしい軽快さを再現するハードルが高くなっているためです。

それでも、「後輪駆動」「軽量アーキテクチャ」「若いユーザー向け」といった構想を語るなど、その思いはかなり具体的でした。

さらにターゲットについても、「社会人になったばかりの若者」「チューニング愛好家」「ドリフトファン」と明確に説明しました。そこからは、単なるノスタルジーモデルではなく、新しい世代へ向けたスポーツカーとして考えていることがうかがえました。

日産が狙う「シエンタ」「フリード」の市場

スポーツカーだけでなく、ファミリーカーについても率直な発言がありました。

イヴァンは、現在の日産ラインアップにはノートとセレナの間に大きな空白があると認めました。特に、トヨタのシエンタやホンダのフリードが活躍するコンパクトミニバン市場への参入が十分ではないという認識を示しました。
そのうえで、「後追いではなく、日産ならではの価値を持った商品を提供したい」と語り、日本市場向けの新たなミニバン投入への意欲をにじませました。

次期スカイラインは“真のスカイライン”として開発

11年ぶりのフルモデルチェンジが噂される次期スカイラインについても興味深い話がありました。

イヴァンは、「インフィニティから派生したクルマではなく、最初からスカイラインとして企画しています」と説明。さらに、次期スカイラインは「スピード」「技術」「誇り」の3つを示す日産DNAを継承する象徴的なモデルになるといいます。

また、開発期間についても従来より大幅な短縮を進めており、当初30か月だった目標を26か月まで短縮できる見込みだと明かしました。

イヴァンが放った「日産の技術力を思い起こさせるクルマになると確信しています」という言葉からは、次期スカイライン誕生への強い自信が感じられました。

自動運転とAIは“時間を生み出す技術”

ラウンドテーブルでは、自動運転技術「NOA」とAI戦略についても説明が行われました。

まずは高度運転支援(L2+~L2++)から普及を進め、その後L4自動運転へ移行するロードマップを描いているといいます。

イヴァンは自動運転の価値について、「渋滞中の2時間を自由な時間に変えられる」と表現しました。仕事やエンターテインメントに使える時間を生み出すことこそ、自動運転の本質的な価値だという考えです。

将来的にはラインアップの90%へのNOA搭載を目指しており、AI技術の活用によるコスト低減も図っていく方針です。

日産再建のカギは商品力

今回のラウンドテーブルで印象的だったのは、イヴァンが経営者である前に熱心なクルマ好きであることでした。

GT-Rを守りたいという思い、シルビア復活への情熱、そしてスカイラインへのこだわり。そのどれもが、数字だけでは語れないクルマへの愛情にあふれていました。

意見交換会 集合写真

日産は2025年度決算で5,330億円の最終赤字を計上し、厳しい状況に置かれています。しかし今回の対話からは、単なるコスト削減ではなく、「魅力的な商品を作ることでブランドを再生する」という強い意志が感じられました。

イヴァン・エスピノーサ氏が率いる新しい日産。その挑戦は、まさにこれから本格的に始まろうとしています。