タカタCRS勉強会 その1

開催日:2011年6月23日
場 所:国際文化会館

<プロローグ>

チャイルドシートの着用が日本で義務化されてから、すでに12年目に入りました。ところが2010年の警視庁・JAF調べでは、その使用率は56.8%。およそ2人に1人が不使用という、酷い現実が明らかになっています。

さらに突き詰めて調査をしていくと、チャイルドシートを使用していても、正しくクルマに装着できている人はほんの数%程度。耐用年数を無視してリサイクル品などを使用しているケースもあり、本当に子供の命を守れる状態にあるチャイルドシートはかなり少ないのではないか。そんな懸念が浮かび上がっています。

その原因は様々で問題点もたくさんありますが、最新の状況を把握するとともに、今後の課題に目を向け、チャイルドシートの進化についても今一度、しっかり学ぶことが大切です。そこで、老舗のシートベルトメーカーであり、早くからチャイルドシートの開発を行ってきたタカタ株式会社にご協力をいただき、勉強会が開催されました。

TAKATA チャイルドシート
従来型のチャイルドシートも、最新の製品は様々な工夫があり、素晴らしいものでした。

 

<子供を守るためには>

TAKATA勉強会風景
多くの資料とともにわかりやすい講義を行っていただき、感謝です。

はじめに講義をして下さったのは、技術本部・N研プロジェクト・ゼネラルマネージャーの吉田氏です。

日本では2010年、クルマに乗っている時の6歳未満の死傷者が9939人おり、死亡は18人、重傷は107人というデータにまず心が痛みます。それに対し、安全先進国のスウェーデンでは死亡が年間3~5人程度しかいないそうで、理由はやはり「CRS(チャイルド・レストレイント・システム)」を徹底しているからとのこと。

骨格が形成途中にある子供には、大人同様のシートベルトではなく、体格に合った安全装置が不可欠であることを踏まえ、その区分をおさらいします。「乳児」用は新生児から体重10kg、約1歳まで。「幼児」は約9ヶ月から4歳、体重9kgから18kgまで。「学童」は3歳から12歳程度まで、体重は15kgから25kg、22kgから36kg程度。この成長に合ったものを使用することが、命を守る第一歩です。

次に、せっかく体格に合ったものを使っていても、クルマに正確に取り付けていなければ効果は期待できません。シートベルトで固定する従来の方法では、取り付け方が複雑、女性の力では固定が難しいなどの理由でミスユースが多く、しっかりと乗せられているのは子供の約2割という結果もあるようです。子供を守るためには、「チャイルドシートに乗っていれば安心」という安易な考えではなく、正確に取り付けて初めて安全性が発揮されるのだというところまで、技術と啓蒙の双方から徹底していくことが今後の課題であると痛感しました。

 

<タカタの取り組み>

コネクター差し込み口
ISOFIXの車両側アンカレッジ。ここにチャイルドシート(台座)側のコネクターを差し込みます。

そこで今、タカタが精力的に取り組んでいるのが「ISOFIX(アイソフィックス)」という取り付け方法。クルマ側のアンカレッジとチャイルドシート側のコネクターを接続することで、簡単に間違いなく固定できます。これは世界共通の互換性を持つ取り付け方法で、すでに欧米ではISOFIXの義務化が進んでいます。

タカタは80年代後半からISOFIXに携わり、日本メーカーで唯一、このISOFIXを製作するメーカーです。その必要性を訴え続けてきた努力が実り、2012年7月1日より車両側のISOFIX装備(2席以上)が義務化されることになりました。タカタは2012年を「ISOFIX元年」とし、改めて普及拡大に努めていくと言います。

一方で、義務化される以前のクルマや価格の問題などで、従来のチャイルドシートもまだまだ必要です。CRS事業部・開発グループ・グループ長の中川氏からは、シートベルトで固定するタイプの最新製品が紹介されました。片手で簡単にはまる自立式バックルや、しっかりベルトが締まったことを知らせる巻き取りハンドル、暗闇でもベルト装着位置がわかるライト、そして通気性とサポート性を突き詰めたクッションなど、その高い技術とユーザー目線での開発には感心するばかり。以前、「子供が自分から乗りたいと思えるようなチャイルドシートを造ることが目標だ」とおっしゃっていた言葉が甦りました。

また、世界に認められたタカタの技術として、「側面衝突試験機」の事例も印象的です。これは、チャイルドシート使用時の事故を調査した結果、致死率を比べると前面衝突よりも側面衝突の方が高い割合であることに着目し、その改善のために側面衝突試験機を開発。それが、米国のNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)に導入されたとのことで、技術はもとより、タカタの企業意識の高さを実感することができました。