BMWデザイン・ワークショップ

開催日:2014年10月1日
場 所:コンファレンススクエアM+「サクセス」

BMWのデザイン勉強会が開催され、ミュンヘンから来日中のBMWデザイン、エクステリア・クリエイティブ・ディレクターである永島譲二さんにお話をお聞きすることが出来た。物静かな口調の永島さんは、これまで僕が接した海外に活躍の場を求めたどの日本人デザイナーとも違うパーソナリティーの持ち主と感じた。

BMWデザイン、エクステリア・クリエイティブ・ディレクター 永島譲二さん

BMWに就職するまでの経歴は、GM→オペル→ルノーと経験豊富。そもそも就職試験などないから、自分で道を切り開かねばならず、手紙を書いたり紹介してくれる人を探したりと、ただ待っているだけでは一歩も前に進まない環境に自らを置いてきた人だ。因みにルノーへはヘッドハンティングされたそうだが、GMへ就職する際も、BMWへ就職する際もすべて自分で相手先に売り込んで、自ら道を切り開いてきたという。

何故BMWだったのか聞いてみた。答えは実に面白いもので、ルノーに在籍していた時に多くのメーカーに自分を売り込む手紙を英語で書いたそうだが、それに英語で答えたメーカーは何と、ボルボとBMWだけで後はすべて自国語の答えが返ってきたという。より国際的で日本人でも働きやすそうなのは英語で返事をくれるところというわけで、ボルボかBMWの二者択一でBMWを選んだのだそうだ。

BMWに入社したのは1988年の終わり。以来今日までBMWに在籍し、E39の5シリーズ、E37、つまりZ3ロードスター、それにE90の3シリーズなどのエクステリアデザインに関わった。今は主に若いデザイナーにアドバイスを与えたり、コンセプトモデルのデザインなどに関わっているそうである。

この間、BMWのチーフスタイリストはクリス・バングルからエイドリアン・ファン・ホーイドンクに変わった。つまり永島さんはこの二人の元で働いてきたことになる。非常に私感が強いが、バングルのデザインはきわめてあくが強く好き嫌いが明確に分かれるデザインだと思っていた。だからさぞや彼の元ではやりにくかっただろうと思いきや、永島さんにとってバングルの方がはるかに仕事がしやすかったと話してくれた。そして、バングルという人物はどちらかというと自動車デザイナーというよりも芸術家的な側面の方が強い人物なのだそうだ。だからZ4やE65~68に至る先代7シリーズのようなスタイリングが誕生したのだろう。

BMWデザイン・ワークショップ スライドそのきっかけとなったデザインが、ジーナと名付けられた1台のコンセプトカーだった。90年代後半には完成していたそうだが、何故か2007年まで一般には披露されていないモデルで、その間にこのクルマをモチーフとしたZ4が登場したことで、後追いの形で世の中に披露されたものだ。自動車のデザインは面と線で構成されていることは誰もがわかることだと思うが、ジーナはそれらを構成するにあたり、ボディ表皮を布で作り、その内側に移動可能なアルミ製のワイヤーストラクチャを組み、そのワイヤーが表皮の布を内側から押し出すことで線を構成し面を作り出している。だから、多くの面が凸面ではなく凹面で形作られているのが大きな特徴だろう。これがZ4のサイドパネルやE90の見られたハイライトとなって活かされていたのだ。Z4以降のBMWにおける造形的な考え方は、このジーナから始まっているのだという。確かに非常に鋭利なキャラクターラインが構成されて独特なデザインを生み出していると思った。

自動車メーカーはデザインに共通性を持たせるべく、いわゆるデザインランゲージというものが存在し、同時に老舗メーカーには一目でそのメーカーのモデルと分かる定番デザインが存在する。メルセデスベンツのグリルがそうなら、BMWの場合はあのキドニーグリルがそうだ。そのBMWのデザイン文法にはこのキドニーグリルの他にズィッケと呼ばれるデザイン。それにすべてのセダンに共通するサイドウィンドーグラフィックという3つの要素が必ず組み込まれている。ズィッケとは言葉自体を調べてみるとイスラム修道僧のかぶるフードあるいは帽子のようなものを指すようだが、それがどんなデザインを指すのかはわからなかった。いずれにしてもこの3つの要素がBMWデザインの基本をなすものだそうで、すべての基本デザインにこれが踏襲されている。もっともキドニーグリルにしても、BMWオリジナルというわけではなく、1930年代にBMWが当時生産していたDixiと呼ばれるオースチンセブンのライセンスモデルに、ドイツのコーチビルダー、イーレが架装したボディに付けられていたもので、それを以後BMWの生産車に付けるようになったことで生まれたもの。だからキド
ニーグリルを作り上げたのはイーレである。

しかし、最新のデザインはその文法からは外れて、表現としては「コアを表皮で包んだような、重量感を感じさせないもの」がニュージェネレーションとして採用されている。その典型がi8のデザインなのだという。つまりボディは概念として表皮であり、仮止めしたようなイメージを持たせたものが最新デザインということになる。確かのi8のデザインは浮遊感がある。しかし、あくまでiにはこのデザイン手法が採用されたが、これが将来のBMW本体に波及していくかどうかは不明だという。

では、BMWデザインのランゲージとは?の質問にはプリシジョン&ポエトリー(Precision & Poetly)と答えてくれた。わかり易いところで行くとキャデラックのアート&サイエンスやフォードのキネティックデザインなど名前の付いたランゲージが存在するが、BMWもちゃんと名前を付けていたことが今回初めて分かった。永島さんの解説で、BMWデザインの基本がだいぶ氷解した思いであった。