環境とエネルギー勉強会

開催日: 2021年12月16日

2021/12/16 AJAJエネルギー勉強会
講師 国際経済研究所理事・主任研究員 竹内純子さん

AJAJエネルギー勉強会

カーボンニュートラルに向け自動車業界が大変革を迫られているなか、クルマ側からではなく、エネルギー側からの視点でクルマの電動化を理解することが重要だろうということで、エネルギーの専門家である竹内純子氏をお招きし勉強会を開催した。

「人々の生活の支えであり、なければ死人が出てしまうかもしれない。それが電気というエネルギーなんです。また、エネルギーは経済活動そのものでもあります。だからこそ、安価で安定した電力を供給し続けることこそが電力会社の努めであり、また国の役割でもあります。」

元東京電力の社員として、毎月の電気料金の支払いに苦労している人たちを見てきたからこその視点。それが竹内氏のエネルギーに対する基本スタンスだ。

もちろん、気候変動対策としての脱炭素が重要なのは言うまでもない。それには「需要の電化×発電の脱炭素化」を進めていくことが鍵になるという。現在、日本の最終エネルギー消費は電力が3割、石油、石炭、ガスといった非電力が7割を占める。この7割の非電力部分を電化すると同時に発電の脱炭素化を進めるという”かけ算”を最大限行えば、試算では72%の脱炭素が可能だという。ここで重要なのはかけ算であり、いくらEVやオール電化住宅を増やしたところで発電の脱炭素化が伴わなければ効果は限定的になる。需要側の電化をしないまま発電の脱炭素化だけを進めても同じこと。需要の電化と発電の脱炭素化はセットなのだ。

しかし、発電の脱炭素化はそう易々とできるものではない。日本の場合、水力発電の適地はあらかた開発し尽くされ、地熱発電は1000m(温泉は100m程度)というとてつもなく深い穴を掘らなければならない。また、太陽光や風力といった再生可能エネルギーには不安定さという弱点がある。それでもすぐに増やせるのは太陽光と風力だが、すでに平地面積あたりの太陽光発電導入量が世界1位に達している日本では残された適地が少ない。また、風力発電には風況の悪さ、洋上風力発電に適した遠浅の海岸の少なさ、風況が比較的良好な北海道や東北地方は電力の大需要地である首都圏から遠く離れているため送電コストが高くなる、といった問題がある。各国の電力網が相互接続された欧州と違い、他国と電力の融通ができないのも日本固有の弱点だ。

そんななか、現在は太陽光や風力の不安定さを補うためにバックアップ用の火力発電所が利用されているが、普段利益を生まない火力発電所を維持するには莫大なコストがかかるし、二酸化炭素もでてしまう。ではバッテリーで電力不均衡の”シワとり”をするのはどうか。竹内さんは懐疑的だ。「バッテリーとは所詮電気を溜めて出すしか能のないものであり、それだけのためにあれほどコストの高い代物を使うのは経済合理性に合わない」。

そこで注目されているのがBEVが積むバッテリーである。「好きなときに好きなところに乗っていけるのがクルマの魅力ですから、いま電気が足りないので乗らずに電気を供給してください、というお願いをするのは本当に心苦しいのですが、エネルギー側から見るとBEVの大容量バッテリーはとても魅力的なのです」と竹内氏は言う。というのも、BEVは需要側の電化と同時に、再エネの不安定さを補うことで発電の脱炭素化にも貢献する「かけ算で効いてくる存在」になり得るからだ。ちなみに、電力系統の安定化に役立つV2Hに対応しているのはいまのところ日本製EVのみである。

とはいえ、エネルギー同様、人々の日々の生活の足であるクルマにとって価格は重要なファクターであり、脱炭素の美名の元にEV化によるコストアップをユーザーに押しつける、あるいは多額の補助金で無理やり需要を掘り起こすのは持続的な方法ではないだろう。それは「脱炭素電源だからといって高かったり不安定だったりしては意味がない」という竹内氏の主張とも重なる。さらに言えば、この先石油価格の低下は期待薄である。そこで避けては通れないのが脱炭素電源のひとつである原子力発電だ。竹内氏は、「複雑な思いがある方がいらっしゃるのは痛いほど理解していますが、カーボンニュートラルが求められるなか、現実問題として再稼働や新設に関する議論を避けていたら日本の製造業が明るい未来は描くのは難しいでしょう。政治もメディアも原発議論から逃げていてはいけないと思います」と言う。フクシマを体験している日本人にとって、原子力発電はできれば触れたくない話題だろう。が、賛成、反対にかかわらず、議論そのものから逃げてはいけない、というのは本当にその通りだと思う。

自動車サイドからみると、価格、航続距離、充電時間、充電インフラなどBEVの本格普及にはまだまだクリアすべき問題が山積している。しかしエネルギーサイドからは間違いなくBEVが求められている。折りしも12月14日にトヨタが従来の2030年BEV販売目標を200万台から350万台へと大幅上方修正してきた。また、2022年には日産、三菱から軽自動車のBEVが発売される予定だ。この先、庶民にも手の届く価格の魅力的なBEVが登場してくれば、自動車サイドからの眺めは少しずつ変わっていくかもしれない。