2023年カヤバ株式会社製品技術勉強会

開催日: 2023年9月28日(木)〜29日(金)
場所: カヤバ株式会社 岐阜北工場/開発センター

カヤバ株式会社 岐阜北工場 正門2023年9月28日から翌29日にかけてカヤバ株式会社様により、自動車用ショックアブソーバの生産工場である岐阜北工場の見学会、ならびに製品技術勉強会、および開発センター内のテストコースにおける試乗会が、AJAJ会員と一部メディア向けに実施されました。同社様の勉強会は2017年以来、コロナ禍を挟んでじつに6年ぶりの再開です。その間に当然、自動車産業においてはカーボンニュートラルへの取り組みが先鋭化し、電動化や循環型経済へのシフトが重要テーマ化しています。そんな中で、自動車用ショックアブソーバとパワーステアリングという、ダイナミック・セーフティの要をなすコンポーネンツの今を、実地で学べたことはきわめて意義深いものでした。

当日は朝7時45分に新宿駅付近に集合し、チャーターバスで中央道から一路、岐阜北工場へ。13時30分からのプログラムを少し前倒しし、オートモーティブコンポーネンツ事業本部の馬場友彦 技術統括部長兼 開発センター長と、AJAJの日下部 保雄前会長から、それぞれ会頭の挨拶が述べられました。かくして同工場の概要や生産体制、カーボンニュートラルへの取り組みに関するプレゼンテーションより、座学が始まりました。

カヤバ株式会社 オートモーティブコンポーネンツ事業本部 馬場友彦 技術統括部長兼 開発センター長
カヤバ株式会社
オートモーティブコンポーネンツ事業本部
馬場友彦 技術統括部長兼 開発センター長

岐阜北工場は東京ドーム3.3個分にあたるおよそ15万7000平方メートルの敷地で、約2100名の従業員が働いており、約7500もの品番を生産する一大拠点で、ショックアブソーバの生産量は月産220万本、一年あたり2600万本に達するそうです。特徴は、スチールの板材を丸めて筒状にするところからオイルシールまで一気通貫でショックアブソーバを生産すること、あるいは工作機械や生産設備の85%にも及ぶほど、内製率が高いところだそうです。そうしないと競合他社とのコスト競争で、勝てないといいます。

カヤバ製品技術勉強会 敷地内風景こうした規模と効率の追求の一方で、カーボンニュートラルの実現に向け、2018年の排出量をベンチマークに2030年に半減する目標も掲げられています。具体的には、工場での使用電力に太陽光発電の割合を増やしつつ、やがて稼働予定のコージェネを採り入れることで、年間5000トンづつCO2排出を削減していく予定です。

工場見学は2グループ、それぞれ9~10人に分かれ、間隔をおいて周りました。ショックアブソーバの生産ラインは、ストラット用ショックアブソーバと、ウィッシュボーン式やマルチリンク式などより高付加価値モデルに採用されやすい標準SA(ショックアブソーバ)に分かれます。とはいえ板状の鋼材を造管するところから始まって、アウターシェルにピストンロッドアッシーを組み込むという基本工程の大きな流れは同じ。ただしショックアブソーバが構造として強度や剛性を兼ねるストラット用については、アウターシェルの加工に通常の溶接や塗装のみならず、スプリングシートやナックルガイドにアーク溶接を多用する必要があります。ピストンロッドやシリンダーも、熱処理から施削・研削、めっき加工などがなされた上に、ピストンやベースバルブ、プラ部やオイルシール類を組み付け、ピストンロッドアッシーとなっていきます。当然、OEMごとの細かなオーダー内容に応じて生産するため、専用の号口ごとにラインも細分化されています。

カヤバ製品技術勉強会 工場内見学風景いずれ多様な品番を扱いながら、オーダーから2時間後に製品として出荷を迫られるほどの高効率も求められるため、塗装や溶接のブース、さらにはベースバルブアッシーなど複雑化するワークを洗浄するブースも組立ラインと隣接しており、荷捌き場まで工場内の動線はコンパクトにまとめられていました。一方で、21年間というOEMによる販売終了後のパーツ供給年限に対応するため、同じ品番の製品でも1/3以下の工員数で、より時間はかかるけれども細かい少量ロットのオーダーに対し、確実に生産するためのラインもあります。OEM用もアフターマーケット向けも幅広い品番を扱いつつ、極端に時間軸の長短が異なる生産体制を同時に整えている点が印象的でした。

カヤバ製品技術勉強会 工場内見学風景90分ほどの工場見学を終えた後は再び会議室において、先述の馬場技術統括部長より開発体制とその着眼点が説明されました。持続可能なモビリティ社会への貢献のため、環境・効率・快適性・安全性・利便性という、5つの柱を軸に、カヤバならではの強みを新製品に集約していくといいます。具体的には車載機器側のノウハウ、つまり電動パワーステアリングに代表される平面方向の動きと、セミアクティブ~アクティブサスといったサスペンション側の上下方向の動きを、統合して協調制御していくことです。加えてカヤバはポンプ類やショックアブソーバ内で用いられる作動油をヤシの実油のような天然系基油に置き換え、回収とリサイクルを実現していくことで、環境負荷低減とカーボンニュートラル化を図っています。この「環境作動油」のコンセプトは「サステナルブ」と名づけられ、メーカーのコンセプトカーや、スーパー耐久シリーズ、またはカヤバ社内チームによる全日本ラリー選手権参戦車両、GRヤリスにも先行開発的に用いられています。

カヤバ製品技術勉強会風景続いてはサスペンション事業部 技術部の中川大雅部長と、車載機器事業部 技術部の井出典数部長より、それぞれの製品・機能説明がありました。まず前者、ショックアブソーバの技術トレンドとしては、やはり車両の電動化に伴う重量増への対応で、快適面では微低速域からの減衰力確保が、効率面ではコンポーネントの軽量化や、ストロークエンドでの減衰力制御がテーマになっているそうです。方策としては、ロッドガイドなど摺動部品に素材や添加剤レベルから特性改良を施したり、ベースバルブなどの機械的な改良、あるいはソレノイドバルブによる電子制御減衰力調整をさらに刷新すること、といいます。

後者は現状、CVT用としては世界で約50%のシェアを誇るベーンポンプと、油圧式ラック&ピニオンEPSが主力です。EPSについては今のところ日本では展開していないものの、アメリカのレクリエーション用オフローダーや、中国のEVメーカーへの供給で強い伸びを示しているとか。しかも、冗長性をもたせた反力アクチュエータならびに転舵アクチュエータを用意でき、48Vシステム対応かつソフトウェアはAUTOSAR対応とすることで、ステア・バイ・ワイヤをカヤバ単独で実現するだけの要件を備えているといいます。サスペンション側のノウハウや開発能力を鑑みれば、野心的なプロジェクトといえるでしょう。

またベーンポンプや電動ポンプの技術は今後、ECUとモーターがコンパクトに一体化されたe-アクセル、つまり電動車用の車軸モジュールに組み込まれる、小型高効率の冷却システムに必要とされていきます。これも、CVT用ポンプで鍛えられた、限りあるスペースに高機能を押し込んでいくノウハウが活きていく分野です。

初日の座学プログラムはかくして幕を閉じ、夕刻より犬山市内のホテルに場所を移し、懇親会を催していただきました。会場ではまず、開催間近のジャパンモビリティショー2023での、カヤバブースの出展テーマや内容について紹介がなされました。次にモータースポーツ部桝本部長より、サポートから実践まで幅広い活動内容の解説紹介がありました。国内トップカテゴリーやWEC、IMSAでもショックアブソーバは50%のシェアを誇り、WRCでも用いられていますが、7月から事業化されたばかりで、まだ発信が追いついていないこと。社内公募で若手の希望者を募り、全日本ラリーに2024年から社員ドライバーで参戦、2025年には入賞を目指し、環境作動油の開発やデータ取りも進めること。そしてチェアスキーや2輪モトクロス、AMAスーパークロスでの開発サポートが語られました。さらには開発センターの浅田部長より、翌日に試乗が行われる開発センターの概要についても、説明がなされました。

カヤバ製品技術勉強会 製品展示明けて翌朝は、6時45分にホテルのロビーに集合。3台のハイエースに分乗して、開発センターへ向かいました。整備棟の2階で、当日の流れをブリーフィングした後、3班に分かれて製品と車両展示、山岳路での試乗、直線路での試乗にそれぞれ、出発します。筆者の含まれた班はひとまず、製品と車両展示のコーナーからスタートしました。

カヤバ製品技術勉強会 試乗風景前日のプログラムで聞いていた数々の製品の実際を、現場の担当者の詳細説明を交えながら現物で確かめられたのは、とても有用なひと時でした。今現在そして中期的に電動車を含む市販車に用いられるであろう、油圧に関する技術の奥深さを垣間見る思いでした。

年間約500万台を生産し、これまでCVTの冷却や潤滑を担ってきた電動オイルポンプは、ICE用途からe-アクセル用途に動いているといいます。CVT用の従来カートリッジは、動力源は電気からとる電動ポンプとして小型化し、カートリッジのみで供給してハウジングはOEM各社に任せられる形、あるいはモーターやECUとのアッセンブリもあるとか。電気自動車のe-アクセルも、上り坂などではかなり発熱するそうで、電動オイルポンプは油圧源用と冷却潤滑用の2種類があり、粘度が低くても駆動できる制御も重要だそうです。ベーンポンプ以外にも、低圧用の内接ギアポンプも開発しています。

続いては北米で盛んなパワースポーツ向けのEPS。岩場や砂漠など、走破性重視のオフローダー用は揺動角を長く確保するため、減速機とトルクアングルセンサ、ブラシレスモーターがコンパクトに一体集約され、ブーツ間隔が狭いのが外観上の特徴です。制御面では、やはり軽くし過ぎるとドライバーが路面を読めなくなるため、反力を入れて消し去るのではなく、多少のトルクステアを伝えることが重要になるといいます。

ソレノイド式減衰力調整アブソーバにも、興味深い発見がありました。アウターシェルに1本もしくは2本、溶接で外付けされたワンソレノイドもしくはツーソレノイドに加え、ロッドアッシー側に内蔵するワンソレノイドタイプがありました。後者は当然、ケーシングの溶接工程がよりシンプルで、ソレノイドが横方向に張り出すこともなく、より小さいクラスへの採用が2026年以降、待たれるそうです。内蔵ソレノイドバルブを制御するコードは、中空ロッド内を貫通していました。ソレノイドバルブ以前の減衰力可変ダンパーは、ロータリーバルブで流路形状を変更していたそうですが、ソレノイドバルブ式は従来の8倍も制御速度が速く、カヤバの製品は荷重変位の幅広さで世界トップクラスを誇り、しかもコンパクトであることを特長としています。

居住スペースが油圧ピストンによって拡張されるキャンピングカーのデモを見た後、山岳路コース次いで直線路での試乗に向かいました。前者において試乗に供された車両は、BYDアット3とカムリが比較車両ありで、メカ制御のショックアブソーバ装着車を、次いで環境作動油を用いたカローラスポーツを試せました。後者の直線路では、スマートフォンで手軽に減衰力を調整できるワンソレノイド式ショックアブソーバを装着したレクサスESに始まり、ツーソレノイド式ショックアブソーバーを装着してカヤバ独自の制御を施したVWティグアン、さらにフルアクティブ制御のBWM5シリーズに試乗。入力以上の変位を創り出せることが、アクティブ制御の特徴ということでした。同じく催されたデモでは、欧州製キャンピングカーのような重量級だからこそ、積極制御が制振性のカギになることも確認できました。

カヤバ製品技術勉強会 製品展示最後に直線路では、今回の勉強会を用意して下さったカヤバ株式会社の皆様と、参加者全員が記念写真。シャッターの瞬間も、チーズとは誰も言わないのが令和でしたが、「カヤバの扱うショックアブソーバと車載機器は、電動車の時代になっても必要とされ続けるパーツ」、そんなひと言が、強く印象に残りました。