「AICE(自動車用内燃機関技術研究組合)勉強会」レポート

日時: 2026年4月20日(月) 13時〜16時/懇親会
会場: AICE オフィス 東京都港区西新橋2丁目8番11号 東洋海事ビル7階
人材育成タスクフォース 長谷川学氏

2026年4月20日に開催された自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)のAJAJ勉強会において、人材育成タスクフォースの長谷川学氏(日産自動車)による「AICE人材育成事業:学生への働きかけについて」と題しAICEをはじめとする、自動車用内燃機関関連への人材育成について説明が行われた。カーボンニュートラル(CN)への移行が叫ばれる中、日本の基幹産業である自動車、とりわけ内燃機関(ICE)分野における人材確保の危機的状況と、それを打破するための具体的な戦略が紹介された。

AICE AJAJ勉強会 スライド: 理念に沿ったAICE活動の仕組み

AICEは2014年の設立以来、「産学官の英知を結集した産業力の向上」と「次世代のリーダー育成」という二つの理念を掲げてきた。長谷川氏は、AICEにおける研究サイクルを「6つの象限」として定義する。

  1. 各社共通の課題を持ち寄り 研究テーマ候補を挙げる 「産ニーズの持ち寄り」
  2. 産学のメンバーでワーキンググループを構成し, 産ニーズを元に研究テーマを立案 する「研究テーマ議論・決定 」
  3. 学生が先生の指導の元 研究を実施する 「大学における研究活動 」
  4. 研究の進捗は,ワーキンググループ で定期的にレビューする 「産学メンバーのレビュー 」
  5. 研究成果を報告書としてまとめ 産学で共有する 「成果まとめ 」
  6. 研究成果は論文としてまとめ 学会などで発表する 「論文発表 」

ICE研究を基に学会発表した論文数は毎年100件前後あり、10年目の2014年で累計900件にたっしているという。また、優秀は論文に対してはICEアワードという賞を授与。こちらは毎年10件程度が表彰され、累計で100件程度になっている。

産業界の共通課題(ニーズ)に対し、学生が研究を行い、その成果を産業界のエキスパートがレビューして論文や知財、モデルへと昇華させる。循環が理想であるが、この持続的なサイクルが今、大きな壁に直面している。長谷川氏は文部科学省の統計を引き合いに出し、厳しい現状を突きつけた。 統計によれば大学進学率が向上している。しかし、その裏には18歳人口の減少が影響しているという面もあり、大学進学率は向上しているものの大学生は減っているのだ。そして、工学部を志望する学生の割合は1990年代後半から右肩下がりだ。さらに深刻なのは、博士課程(ドクターコース)への進学者数である。修士課程までは一定数を保っているものの、博士課程への進学率は大幅に低下しており、高度な専門性を持つ研究実施者の確保が産学双方で喫緊の課題となっている。

背景には、メディアによる「エンジンはなくなる」といった偏った報道や、それを受けた保護者・教育現場でのイメージ悪化がある。「自動車業界はやめておけ」という逆風の中、いかにして若者の関心をICEや自動車工学に引き戻すかが、戦略の焦点となっている。

AICEはこの課題に対し、学生のステータスに応じた多角的なアプローチを開始している。

  1. 低学年・高校生(興味喚起層): 自動車産業の現状と魅力を正しく伝える。
  2. 学部3年生(選定層): ICE研究のメリットを広め、研究室(ゼミ)への加入を促す。
  3. 修士・博士(専門層): 潤沢な研究費と産業界との濃密なコミュニケーションを提供し、高度な課題解決能力を養育する。
AICE AJAJ勉強会 スライド: どのように学生にアプローチするか

長谷川氏は「まずはクルマに触れてもらい、目を輝かせてもらうことが原点」と語る。

2025年度、AICEは全国各地で次に挙げるような「走りながら考える」トライアル活動を展開した。

  • 同志社大学での産学連携イベント: キャンパスに実車を展示。産業界のエンジニアが直接学生と対話し、技術の深さを伝えた。「エンジニアの熱い語りは学生に確実に響く」という手応えを得た。
  • オープンキャンパスの活用: 東京大学、京都大学、東北大学などで実施。集客力のある既存イベントに相乗りすることで、効率的に中高生へアプローチした。
  • スーパーサイエンスハイスクール(SSH)との交流: 京都府内の高校生に対し、実験を交えた講義を実施。非常に高い感度を持つ層への手応えを確認した。
AICE AJAJ勉強会 スライド: AICE研究による人材育成の実績

また、海外に目を向けると、ドイツのパワートレインコンソーシアム(FVV)も同様の課題を抱えている。ドイツでは学生フォーミュラのパワートレインをEVに限定してしまったため、ICE技術に触れる機会を失った。これを危惧した企業側は「フォーミュラ・フューチャー」という新たな枠組みを創設。水素エンジンや合成燃料など、CNパワートレイン全般を対象とした支援を行っているという。

一通りの説明が終了した後、AJAJ会員からからも意見が述べられた。「この活動は就職に有利なのか」「学生は就職のことしか考えていないのではないか」という問いに対し、長谷川氏は「就職は個社活動だが、AICEとしては業界全体の認知度と技術の魅力を高めることが役割」と回答。

一方で、ICEで培われるスキル(燃焼、材料、構造、MBD)は、バッテリー開発など他の領域にも極めて汎用性が高いことを強調した。日産自動車の事例では、エンジンの熱力学を学んだ人材がバッテリーの設計でも卓越した成果を出しているという。ICEの学びは、将来どのようなエネルギー社会になっても通用する「工学の本質」を内包している。

AICEは今後、これらの活動を全国規模に拡大し、組織化していく計画で、サプライヤー企業の参画促進、卒業生のトラッキング、SNSやメディアを活用した継続的な広報活動を通じて、「ICE研究は未来への挑戦である」というメッセージを定着させていく。

「30年後のカーボンニュートラル社会で中堅層として活躍するのは、今の学生たち。彼らにこそ、次の波を作る主役になってほしい」。長谷川氏の言葉は、技術の継承が単なる知識の伝達ではなく、情熱の伝播であることを物語っていた。

※詳細資料は限定公開となっていますので、会員の方は会員ページで確認してください

■参加者18名(敬称略、五十音順)
有元正存/池田直渡/石川真禧照/大音安弘/岡崎五朗/桂伸一/菰田潔/鈴木直也/高山正寛/竹花寿実/西村直人/松田秀士/桃田健史/森川オサム/諸星陽一/山崎明/山城利公/吉田由美