「シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所」勉強会レポート

日時: 2026年8月19日(水) 13:00〜17:00
会場: シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社 技術研究所

貝殻マークでお馴染みのエネルギー関連企業「シェル」傘下のシェルルブリカンツジャパンによるAJAJ向けの勉強会が、2026年8月19日、同社の技術研究所(神奈川県愛川町)で開催された。

シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所 勉強会風景まず少しシェルについて紹介したい。その歴史は、1871年、高校を卒業したマーカス・サミュエルが来日したことに始まる。三浦海岸で見つけた美しい貝殻を加工して、イギリスにいる雑貨商の父に送ることで、家業である雑貨商を成功に導いた。つまり、ビジネスの原点は、日本の貝殻にあったのだ。当初は、ムール貝のデザインだったが、1904年以降、ホタテ貝モチーフのロゴとなった。また現代では当たり前のタンカーによる輸送だが、1891年に最初に実現したのも、マーカス・サミュエルだった。それまでは安全面も含め、小さな容器に入れていたというから、低コスト輸送実現は、社会の発展にも大きな影響を与えたことだろう。

近年の動きでは、2019年4月に、昭和シェル石油と出光興産が経営統合後、シェルスタンドは、出光「アポロステーション」に一本化。ガソリンブランドとしてのシェルは国内から消滅したが、2017年11月に、昭和シェル石油の潤滑油・グリース事業を分社化した「シェル ルブリカンツ ジャパン」が日本国内での潤滑油とグリースのビジネスを継続している。そのため、市販用のシェルエンジンオイルの販売は継続されており、カー用品店などで入手可能だ。

シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所 勉強会風景勉強会の会場となった技術研究所は、シェル直営の施設として、1966年に開設されたもので、グループの世界各地の開発拠点のひとつ。日本を含め、ハンブルク(ドイツ)、上海(中国)、ヒューストン(アメリカ)、ベンガルール(インド)の5拠点が設けられている。世界の研究所と協力しながら、日本の顧客用の製品開発や日本基準の高性能開発商品の世界展開などを担っている。また日本の技術研究所の強みとして、「超低年度省燃費エンジン油」、「超低粘土省燃費ギア油」、「新規増ちょう剤グリース」、「高効率工業用潤滑油」が挙げられる。

シェル エンジンオイル ポスターやはり、多くの人に馴染みがあるのは、エンジンオイルだろう。シェルは、19年連続潤滑油のシェアが世界№1(2025年末時点)のトップ企業で、自動車に限らず、工業向けでもトップ。またシェルの名前は伏せられているが、日本の自動車メーカーにもオイルを供給しているという。またクルマ好き憧れのイタリアンスーパーカー「フェラーリ」にも純正採用されており、モータースポーツ活動を支えていることでも有名だ。

シェル エンジンオイル 展示それらの潤滑油に製造の基本となるが、ベースオイル(潤滑油基油)だ。原油由来のものは、まず常圧蒸留塔で原油を加熱し、沸点の違いから、石油ガス(LPG)、ナフサ、灯油、軽油(ディーゼル)、重油、そして、常圧残油が得られる。その常圧残油は、減圧蒸留塔で精製することで、VGO(減圧軽油)、ベースオイル留分、減圧残油の3つに分かれる。このベースオイル留分を精製することで、ベースオイルが完成する。因みに、VGOはガソリンやナフサ、軽油原料に。減圧残油は、重油やアスファルトの原料となり、無駄なく活用される。このベースオイルは、原油100%に対して、1~3%しか得られないと聞くと、非常に貴重な物に感じる。もちろん、原料となる原油も産油地により性質が異なるため、ベースオイルを得るために、適した原油のチョイスも重要だ。また精油時にベースオイルを取らず、VGOなどに充てることもできるため、燃料不足の状態では、燃料用原料の優先度が高まる。現在のオイル不足は、その影響もあるようだ。

シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所 勉強会スライド原油由来のベースオイルには、アメリカ石油協会(API)によりグループ分けされ、1から5に分類されている。数字が大きいほど精製度が高く、グループ1は工業用。自動車用には、グループ2~4が使われている。現在の自動車エンジン用のものの主流はグループ3だそう。その背景には、環境対応などオイルに求められる要求が高まっていることもあるようだ。因みに、シェルのフラッグシップエンジンオイル「HELIX ULTRA」のベースオイルは、天然ガス由来のもの。天然ガスビジネスにも力を入れるシェルの独自技術によるものだが、その強みは、原油よりも不純物が少ないこと。APIの分類では、グループ4に相当する性能だそうだ。残念ながら、こちらの原料の輸送にも、中東危機の影響がでているという。

シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所 勉強会スライドさて潤滑油に話を戻そう。潤滑油の成分は、ベースオイルに添加剤を加えたもの。その割合は、80%~95%がベースオイルで、添加剤は20%以下しか含まれない。開発者は、みそ汁例え、ベースオイルがだし汁であり、添加剤が味噌や具材と説明してくれた。つまり、みそ汁として、良質なベースオイルであることは大前提だが、目的や方向性は添加剤で決まるというわけだ。

添加剤には、摩擦低減剤、粘土指数向上剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩耗防止剤が含まれる。これを目的に合わせて、最適にブランドすることが技術やノウハウの見せどころとなる。

今回は、ベースオイルに添加剤を加えた潤滑油作りにも挑戦させてもらった。同チームがブレンドは、99.9%のベースオイルに、0.1%の摩擦防止の効果があるZnDTPを加えたもの。その効果を試すべく、回転する鉄球と固定する鉄球で潤滑性能を調べる「シェル四球試験」を実施。ベースオイルだけの試験では鉄球が変形し、固着してしまったが、我々の潤滑油は、全ての鉄球に傷ひとつ付くことがなく、綺麗なまま。オイルの成分の重要性を実感した。

ベースオイル&ZnDTP「シェル四球試験」クルマにとって大切なエンジンオイルは、時代の要求するエンジン性能を保つために、進化を続けてきた。例えば、2000年以降のエンジンダウンサイジング化は、エンジンの軽量化などのメリット生む一方で、エンジンオイルの負担を増した上で、ロングライフ化に対応する苦労が生まれた。電動化シフトの中でもフリクションを下げる低粘度のエンジンオイルが求められ、その活躍の幅も広がっている。世の中では、EVシフトで潤滑油の役目が減るとみる向きもあるが、EVにも潤滑油は必須。駆動はもちろんのこと、モーターの冷却にも使われているのだ。また多くの自動車メーカーは、マルチパーパス戦略をとるため、新車に関しても、エンジンオイル自体のニーズもまだまだ大きいのだ。クルマの進化の裏を支えてきた潤滑油は、如何なる進化を遂げようとしているのだろう。今後の技術革新にも興味をそそられた勉強会だった。

シェル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社技術研究所 勉強会 集合写真
■参加者(22名)
石井昌道/石川真禧照/内田俊一/大音安弘/岡崎五朗/桂伸一/日下部保雄/工藤貴宏/菰田潔/斎藤慎輔/佐藤久実/鈴木直也/鈴木健一/高山正寛/滝口博雄/竹岡圭/近田茂/松田秀士/桃田健史/森川オサム/山城利公/吉田由美