AJAJ ENEOS勉強会レポート

日時: 2026年8月31日(月) 14時〜16時40分
会場: ENEOS本社 会議室
AJAJ ENEOS勉強会レポート 風景

2026年8月31日に大手町にあるENEOS本社で開催された日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)の会員向け勉強会。モビリティに携わる以上、切っても切れない関係にあるカーボンニュートラルや次世代燃料への取り組みなど、今回は抽選で選ばれた30名の他にプラスして先方からオンラインによる参加もご配慮いただいた。

既存の車両と供給網を生かす次世代燃料

次世代燃料部部長 田中秀明氏
次世代燃料部部長 田中秀明氏

まず前半は、次世代燃料部部長の田中秀明氏による開会挨拶に続き、同部首席の菅野秀昭氏が、エネルギー企業の視点からカーボンニュートラルと次世代燃料への取り組みを説明した。

次世代燃料部首席 菅野秀昭氏
次世代燃料部首席 菅野秀昭氏

菅野氏は、CO2の吸収・回収には限りがあり、まず省エネルギーや燃費向上によって排出量そのものを減らす必要があると指摘。そのうえで、電動化と並行し、既存の車両や供給インフラを活用できる液体燃料の低炭素化を進める考えを示した。液体燃料はエネルギー密度が高く、輸送や備蓄が容易で、災害時にも供給しやすい。こうした利点を生かしながら、原料や製造方法を変えてCO2排出削減を図るのが次世代燃料である。

基本となるのは、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性からなる「S+3E」だ。当面はコストや導入の速さで優位なバイオ燃料を活用し、将来の再生可能エネルギー由来の合成燃料へつなげていく。一方、国内の石油需要減少は製油所体制の維持にも影響する。海外の再エネ適地で水素や合成燃料を製造して日本へ運ぶ構想とともに、供給源の分散や大規模投資、国との連携の必要性も説明された。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: 化石燃料/バイオ系燃料/再エネ系燃料の違い

ガソリン分野では、バイオエタノールを10%混合するE10、20%混合するE20の導入に向けた動きが紹介された。示された工程では、E10は2027年度末の規格改正、2030年頃の供給拡大、E20は2028年度末の規格新設、2040年頃の導入を目指す。燃料の規格を先行して整えるのは、自動車メーカーによる対応車両の投入と、その普及に時間を要するためだ。

原料調達では、食料と競合しない古紙や木質などを使う第2世代のセルロースエタノールにも取り組む。日本製紙富士工場内では、古紙を原料とするパイロットプラントを2027年前半に稼働させる予定で、製造技術の実証を進める。また、異業種連携での次世代グリーンCO2燃料技術研究組合(raBit)での活動にも注力している。いずれにしても、植物由来でも原料の供給量には制約があり、多様な資源の活用と製造コストの低減が課題となる。

合成燃料では、水素とCO2から合成粗油を1日1バレル製造できる実証プラントを通じ、各反応工程の性能向上や全体の効率化を検討した。早期の社会実装に向けては、木質バイオマスをガス化して得た合成ガスから燃料を作る、経済合理性の高いルートを優先。国のロードマップとも歩調を合わせて、2030年代前半の商用化を目指す。

普及を支える仕組みとして説明されたのが「環境価値移転」である。低炭素燃料を「燃料そのもの」と「CO2削減に関する価値」に分け、後者を必要とする顧客へ帰属させる考え方だ。例えば、燃料を生産地の近くで使い、その環境価値を離れた場所の顧客に移転できれば、燃料の長距離輸送を抑えられる。高い製造コストの回収や、需要地と供給地の不一致を解消するため、ルールづくりが進められている。

質疑応答では、エタノール混合による燃費への影響や、給油所の設備対応、燃料調達の地政学的リスクなどが話題となった。給油所では部材の見直しや水分管理が必要となり、改修費用を誰が負担するかも、導入に向けた課題として挙げられた。

省燃費と低炭素化を支える潤滑油技術

潤滑油販売部部長 石川達也氏
潤滑油販売部部長 石川達也氏

休憩後は、潤滑油販売部 部長の石川達也氏が、自動車市場の動向と商品展開を説明した。ハイブリッド車の比率が高まる日本では、エンジン搭載車向け潤滑油の需要が続くとの見方を示し、内燃機関向けの省燃費化とEV向けフルード開発を並行して進める方針を紹介した。

新製品では、2026年10月発売予定の「ENEOS X PRIME」における最新規格への対応を説明。0W-16と0W-20でILSAC GF-7とJASO GLV-2を両立し、耐蒸発性を確保しながら低粘度化と省燃費性の向上を図る。求められる性能を個別に高めるだけではなく、相反する要求を配合技術によって両立させる点が開発の要となる。

続いて潤滑油研究開発部長の金原栄治氏が、技術面を解説した。GLV-2の考え方は、例えば0W-20では高温域で従来品並みの粘度を維持し、中低温域の粘度を下げることで、省燃費性とエンジン保護を両立するというもの。基油と粘度指数向上剤を工夫し、温度による粘度変化を抑える。特にハイブリッド車の省燃費に寄与する技術として紹介された。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: 自動車用潤滑油商品による2つの低炭素化アプローチ

原料段階からの低炭素化では、植物由来の基油を使う「ENEOS GXシリーズ」と、同様の考え方によるエンジンオイルの開発が示された。植物油を化学処理し、石油由来の基油に近い性状の炭化水素へ変えて用いる。原料となる植物の成長時のCO2吸収と、使用時の省燃費効果を組み合わせ、ライフサイクル全体の排出量削減を狙う。GF-7とGLV-2を満たす処方の開発には成功しているが、この植物由来基油を使ったエンジンオイルの商品化は、顧客ニーズやコストを踏まえて検討する段階である。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: カーボンニュートラルエンジンオイルの開発動向 - CO2排出量低減コンセプト -AJAJ ENEOS勉強会スライド: JASO GLV-2のコンセプトAJAJ ENEOS勉強会スライド: JASO GLV-2のコンセプト

トラック向けの「ディーゼルFG」では、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)に堆積するオイル由来の灰分を減らす技術が紹介された。灰分の元となる成分には、劣化で生じる酸を中和してオイル寿命を保つ役割もあり、単純に減らすだけでは交換頻度が増えてしまう。そこで独自の添加剤処方により、硫酸灰分を0.5%に抑えながら、同社の汎用DH-2油と同等以上の寿命を確保。実車での再生回数低減事例も示され、再生時の燃料消費削減や、整備負担の軽減、車両稼働率の向上につながると説明した。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: ディーゼル車の環境性能向上に貢献するENEOS FLEETシリーズ

EV向けの「ENEOS EV FLUID」は、モーター冷却とギヤ潤滑に加え、電気絶縁性や銅部材を腐食させない適合性が求められる。駆動ユニットの設計によって重視する性能が異なるため、冷却性や省エネルギー性、絶縁性などに特徴を持たせたラインナップを用意。レクサスUX300eを使った自社設備での試験では、市場のATFを用いた場合に比べ、最大約1%の電費向上を確認したという。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: EVの市場トレンド

さらに、バッテリーやインバーターを絶縁性のあるオイルで直接冷却する技術も開発している。水系冷却液で間接的に冷やす方式に対し、熱を伝える際の抵抗を減らし、冷却性能の向上や構造の簡素化を狙うものだ。シミュレーションでも冷却性能の高さを確認しており、低粘度化による冷却性向上と引火点のバランスを取りながら、バッテリーメーカーなどとの検討を進めている。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: オイル系冷却液のメリット

燃料と潤滑油から広がる脱炭素への視点

AJAJ ENEOS勉強会スライド: カーボンニュートラルエンジンオイルの性能-レースにおける取組-

後半の質疑応答では、オイルの価格と省燃費効果、DPF対策の乗用車への応用、EV用フルードの絶縁性などについて活発なやり取りがあった。乗用車への応用については、トラックとは適用規格や処方が異なることを踏まえ、顧客ニーズに応じた技術展開の可能性が示された。勉強会は、潤滑油カンパニー・プレジデントの井原稔氏による閉会挨拶で終了した。

AJAJ ENEOS勉強会スライド: まとめ
潤滑油カンパニー・プレジデント 井原稔氏
潤滑油カンパニー・プレジデント 井原稔氏

前半の給油所の設備対応や費用負担をめぐる議論も含め、質問は実際の導入や利用に関わる条件に及んだ。技術の性能を高めるだけでなく、供給体制を整え、費用や維持管理の負担にも向き合う必要がある。開発・供給する側から、その具体的な課題を聞けたことにも意義があった。

今回の勉強会を通じ、脱炭素を車両の性能だけでなく、燃料の製造・供給や潤滑油の働きまで含めて捉えることができた。原料の転換と省燃費化、維持管理の改善が、それぞれ異なる形でCO2削減につながる。その仕組みと普及に必要な条件を併せて学べたことは、次世代技術をユーザーの立場から伝えるうえで、大きな収穫であった。

■参加者29名(敬称略、五十音順)
会田肇/石川真禧照/内田俊一/大音安弘/岡崎五朗/加瀬幸長/片岡英明/桂伸一/菰田潔/佐藤耕一/鈴木直也/鈴木健一/高根英幸/髙橋アキラ/高山正寛/竹岡圭/西村直人/萩原文博/ピーター・ライオン/藤島知子/丸山誠/桃田健史/森川オサム/諸星陽一/山崎明/山崎元裕/山城利公/山田弘樹/吉田由美