日産先進技術事前勉強会

開催日:2009年1月27日
場 所:NATC(ニッサン・アドバンス・テクニカルセンター)

2009年1月27日、神奈川県厚木市にあるNATC(ニッサン・アドバンス・テクニカルセンター)を訪ねた。日頃訪れる機会の多いNTC(ニッサン・テクニカルセンター)からクルマで10分ほどの距離にあるのだが、今回が初めての訪問。丹沢山系の麓に位置するこの研究所は、豊かな自然に囲まれた環境で、2年前にリニューアルされたという美術館を思わせる建屋を誇っている。ここでは、約2000人の技術者が勤務しているという。

今回の勉強会は、今後日産自動車とAJAJが協調して、どのような活動ができるか。また、それにより一般ユーザーにはどのようなメリットが生まれるかなどを探るための事前勉強会として、AJAJ理事を対象に開催された。

勉強会のテーマは、”ダイナミックパフォーマンス”と”ライフオンボード”。

まず初めに、技術開発本部テクノロジーマーケティング室の土井三浩室長より

「これまで日産は、技術のコミュニケーションが苦手であった。環境や安全などは伝えやすいのだが、ダイナミックパフォーマンスやライフオンボードなどはどのように伝えてよいかわからず悩んでいた。そこで、バックヤードではどのような開発をしているのかを(AJAJに)知ってもらうために今回の勉強会を開催する運びとなった」

とご挨拶をいただいた。

次に、技術開発本部車両性能開発部車両動性能開発グループの波頭伸哉エキスパートリーダーより、ダイナミックパフォーマンスについての説明を受けた。ちなみにエキスパートリーダーとは、技術マネージメントの責任者であり部長職に相当するポジションとのこと。

まず、日産の動的性能開発の振り返りを行った。1980年代に発足した”プロジェクト901″では、「1990年代までに世界一の運動性能を目指す」をスローガンに「走りの理念」を構築した。Z32、R32、G50、P10での世界一への挑戦。ニュルブルクリンクでの走行テスト。エクセレントドライバーの養成などが、その具体的な活動である。

続いて1990-2000年代は、プロジェクト901で構築した「走りの理念」を、より多くの車種に拡大することを目標とした。つまり、多くの日産車において、意のままに操れる走りの楽しさを追求したというわけである。そして2004年からは、これまでの動的性能に加えて、静粛性や乗り心地を含めた走りの性能をトータルで扱うダイナミックパフォーマンスが定義された。

ダイナミックパフォーマンスとは、静かさ、乗り心地、ハンドリング、ブレーキ、加速性能などの走行性能を表しており、それらドライバーにとって感覚的な性能を数値化し「運転して楽しい」と感じられるクルマ作りを実施している。日産では「”感”を設計する」と表現しているが、具体的には乗車直後に感じられるドライブへの期待感、加速をした際の昂揚感、高速走行時の信頼感や安心感、コーナリング時の一体感などを指す。

ライフオンボードについては、内外装技術開発部の山田耕司主管と、同・田村谷エキスパートリーダーより説明を受けた。山田主管によると「ライフオンボードとは、安全、環境、走り意外の残り全部!」とのことだったが、実際にクルマに乗ってから降りるまでのすべてのシーンで新しい価値を提供することを目的としている。具体的には、運転しやすいコックピット、快適なキャビン、上質なインテリアを柱とし、それらを実現するための様々な技術やアイディアなどを総括して表現するもの。先のダイナミックパフォーマンスとともに、自動車に求められる環境性能や安全性能に加えて、所有する歓びや満足感を高めるためには重要なポイントである。

これまで日産は、内装に関しては開発の本流だとは認識していなかったという。しかし近年、クルマのライバルがクルマではなくなり、とくに若年層にとっては携帯電話などが自己のライフスタイルを構築する優先アイテムとなっている事実がある。彼らは、使っていて気持ちのよいもの、自身の感性にマッチするものでないと積極的に身の回りに取り入れないという傾向があることがわかり、「本当にいいモノとはなんだ?」という原点回帰に至った。

開発の過程では、数100人規模のモニターによる市場調査を定期的に実施し、そこからフィードバックされたデータをいち早く反映させるなど、細かい努力が積み重ねられている。もともと、クルマの魅力を語るうえでは、スペックに表れない部分を重要視することが多い。つまり、長時間乗り続けたり、長期間所有することでわかる品質や安心感などだ。ヨーロッパ車をはじめとする輸入車にこの傾向が多いのは、やはりクルマに対する価値観や文化の違いが現れていることは否めないが、日産では、人間の感性に響く魅力をもったクルマの開発に積極的に臨んでいる。一般ユーザーに認められるまでには相当な時間を要することだが、単に機能性や実用性だけを重視するのではなく、クルマと過ごす時間が生活に潤いをもたらしてくれるような、そんなクルマの開発が待ち遠しい。

最後に、開発陣との質疑応答の時間を設けていただいた。そこでは、今後の新型車発表会および試乗会において、AJAJ会員を対象とした詳細な技術説明などの時間を設けることも検討課題としてあげられた。開発の方向性を正しく理解することや、新型車に対する開発陣の思い入れなどを探り出すことで、AJAJ会員のジャーナリスト活動にも深みが増し、読者に対する訴求力も高まることが期待できる。