AICE(自動車用内燃機関技術研究組合) 勉強会レポート

日時: 2026年4月20日(月) 13時〜16時/懇親会
会場: AICEオフィス

AICE勉強会に参加して
クルマをCN化するICEとBEVの最適バランスとは?

SIPで熱効率50%以上を達成

Automotive Internal Combustion Enginesを略してAICE。「アイス」と読む。正式名称「自動車用内燃機関技術研究組合」は2014年、自動車メーカー8社とJARI=日本自動車研究所によって設立。その後、メーカー1社とAIST=産業技術総合研究所が加わっている。

設立まもなくAICEが手掛けたプロジェクトが「SIP革新的燃焼技術」だ。当時の安倍内閣が打ち出したSIP=戦略的イノベーションプログラムの第1期(2014〜18年)にAICEが提言し、採択されたもの。「乗用車用エンジンの最大熱効率を50%に高める」という高い目標を掲げ、それを「持続的な産学連携により実現」すると共に、「世界トップクラスの内燃機関研究者の育成、省エネ、CO2削減および産業の競争力強化に寄与」することを目指す研究だった。

スライド: AICEによるSIP燃焼支援

この「SIP革新的燃焼技術」には約80校の大学が参加し、「ガソリン燃焼」、「ディーゼル燃焼」、「制御」、「損失低減」の4チームに分かれて研究を進めた。SIPの管理法人であるJST=科学技術振興機構が全体をマネジメントする一方、AICEはJSTと連携協定を結び、予算配分を受けない立場で研究を支援した。

スライド(科学技術振興機構プレスリリース): 正味最高熱効率50%超を達成した技術の概要
出展: 科学技術振興機構(JST)プレスリリース

その成果は、ガソリンエンジンでは「超希薄燃焼」により正味最高熱効率51.5%、ディーゼルでは「高速空間燃焼」により50.1%と、見事に目標をクリア。モデルとソフトウエアでそれを確認するという、言わば理論値だったが、2019年1月にJSTが発行したプレスリリースでは、「本プロジェクトで得た(中略)基礎的な最先端の知見や技術などは、各社に競争領域の開発研究や設計に取り込まれ、製品化に結びつく」と、その意義を強調。そして、「各成果をさらに発展させるための産産学学連携による研究開発を、本プロジェクト終了から間をおかずに開始・持続できるようにする検討も進んでいる」としていた。

……と、ここまでは勉強会では紹介されなかったAICEの実績。勉強会の後に調べてみた。ちなみに「産産学学連携」とは、1企業と1大学の連携ではなく、複数の企業が複数の大学と有機的に連携する体制を意味するAICEの造語である。

グリーンイノベーション基金事業

AICEで現在進行形のプロジェクトが、今回の勉強会の核心部分と言うべき「燃料利用技術の向上に係る技術開発」だ。これはNEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構の「グリーンイノベーション(GI)基金」を活用して進めている。

2020年10月の菅内閣による「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、経済産業省が中心になって「グリーン成長戦略」を策定。14分野について実行計画が示された。それを実現する民間の努力を後押しするため、NEDOが2022年度に創設したのが総額2兆円のGI基金である。

「グリーン成長戦略」の14分野のうち自動車に直接関係するのは「自動車・蓄電池」、「水素・アンモニア」、「カーボン・リサイクル・マテリアル」の3つ。「カーボン・リサイクル・マテリアル」ではカーボンフリーな合成燃料を2040年(後に30年代前半に改訂)までに商用化し、2050年までにガソリン価格以下にする目標が設定されている。これに対応するNEDOのGI基金事業が「CO2等を用いた燃料製造技術開発」プロジェクトであり、そのなかの液体合成燃料のカテゴリーでAICEの「燃料利用技術の向上に係る技術開発」が採択された。

GI基金事業は2022~30年度にわたるが、「燃料利用技術の向上に係る技術開発」は22〜27年度で進めている研究だ。対象は乗用車と大型商用車の両方。乗用車では、HEVを前提に「エンジンの熱効率向上等によりタンクto ホイール(テールパイプエミッション)でCO2排出量を1/2以下にする」ことを目標としている。

HEVで42.8%のCO2削減

2025年度までの成果として勉強会で示されたHEV専用エンジン単体の最高熱効率は50.3%。「SIP」のときより熱効率が少し下がった理由はわからないが、それを搭載したシリーズパラレルHEV(シリーズ+直結駆動)のシミュレーションではWLTCモードで42.8%のCO2削減率を達成している。ちなみに達成度を測る比較基準のHEVのCO2排出量は110g/kmと設定。当時のプリウスやノートより少し多く見積もったようだが、標準的なHEVの数値だと受け止めればよいのだろう。

2027年度末に見据える最終ゴールは55g/km。現状ではPHEVでしか達成できない数字だ。それをHEVで実現するノウハウをAICEという場を通じてメーカー各社が共有し、その上で各社が競争を繰り広げていくと・・。55g/kmはまだ途中経過の数字と言えるのかもしれない。

スライド: AICEのカーボンニュートラル技術シナリオ(乗用車版)

さらにAICEはこうしたパワートレイン技術にCN燃料や排気CO2の回収、パワートレイン以外の効率向上などを加えて、ウェル to ホイールで実質CO2ゼロを達成する長期ロードマップを描いている。つまり2050年以降のCN社会においても、ICEはモビリティを支える役割を果たしていけるというわけだ。

e-フューエルのハードル

この「燃料利用技術の向上に係る技術開発」の研究目的は、「合成液体燃料(e-フューエル)の供給量とコスト課題の克服」とされている。GI基金事業の液体合成燃料のカテゴリーで採択されたプロジェクトだからe-フューエルと銘打っているが、AICEは水素も含めてあらゆるCN燃料を研究対象としており、燃料によらずICEのCN化を目指すのが基本スタンスである。

ドロップイン可能なCN燃料を使えばすぐにもICEが実質的にカーボンニュートラルになる理屈とはいえ、供給量に制約があるならCN燃料の需要をそれに見合う量に抑えなくてはいけない。前述のように政府は2050年までにガソリン価格以下にする計画だが、それより早くCN燃料を使い始めてもらうにはユーザーの負担を軽くしたい。いずれにせよ燃費を大幅に改善する必要がある。そのための研究というわけだ。

カーボンニュートラル達成に必要なe-fuel製造プラント規模

e-フューエルについては、シーメンスとポルシェが南米チリの南端に位置するハルオニで日量2.2バレルを生産する実証プラントを稼働させ、ポルシェカップのレースカーに供給している。しかし今回の勉強会でAICEが示した資料によれば、2050年に日本の保有台数すべてをCN化するには日量30万バレル余りのe-フューエルが必要で、これはハルオニ・プラントの13.5万倍にも達するとのこと。気の遠くなるような数字だ。

しかも、年間を通じて強風が吹くハルオニでは風力による電力で水を電気分解して水素を得ているが、日本には風力発電の適地が少ない。高緯度なので太陽光発電に頼るのも難しい。原料の水素は多くが輸入になるのだろう。しかしe-フューエル普及のハードルはそれだけではない。

資源エネルギー庁は2025年10月、「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」の見直しを発表した。GI基金を活用してe-フューエルを研究開発していたENEOSがパイロットプラントの建設を無期延期したことを受けたものだ。建設費の高騰がその理由とされる。これまでの研究成果をバイオフューエルに活かすことを条件に、ENEOSのGI基金事業は2026年度で終了することが許可された。SAFという眼前の需要があるバイオフューエルのほうが、e-フューエルよりも事業化しやすいのかもしれない。

それでも資源エネルギー庁は2027年度中に日量300バレルでパイロット生産を始める計画は変えておらず、さらに商用プラントの設計と設備投資を前倒しし、従来計画を前倒しして2030年代前半に日量1万バレルの量産を開始する計画だ。しかし現在の日本のガソリン消費量は日量75〜80万バレル。そのすべてをe-フューエルに置き換える道のりは遠い。

すべてをBEVにはできない

資源エネルギー庁が2025年に発表した「第7次エネルギー基本計画」によれば、2050年時点の電源構成は再エネが40〜50%、原子力が20%、火力が30〜40%。火力については水素発電/アンモニア発電やCO2回収により脱炭素を果たす計画だ。発電の脱炭素化方針は2021年の「第6次」ですでに示されていた。

発電が脱炭素するなら、電池生産で多くのCO2を消費するというBEVの弱点は解消される。徹底した省エネを前提に、脱炭素化した電気により電力部門以外の電化を進めるのがエネルギー基本計画の基本的な考え方であり、BEVはそれに合致するのだが・・。

スライド: 第7次エネルギー基本計画の概要

「第7次エネルギー基本計画」では、2040年の最終エネルギー消費(国民が使うエネルギーの総量)が省エネ努力によって22年より15%前後減るとする一方、電力需要はGX/DXの進展により最大2割程度の増加を見込む。それでも最終エネルギー消費のうち、電力でまかなえるエネルギーは半分にもならない。化石資源由来のエネルギー消費をすべて電力で代替するには程遠い。となれば、すべての自動車のエネルギー源をガソリン/軽油から電気に置き換えるのが難しいというのも、容易に想像できる話だ。

「技術進展シナリオ」は最悪ケース

勉強会では「第7次エネルギー基本計画」の関連資料である「技術進展シナリオ」に基づいて、日本のBEV/PHEVの普及予測が示された。複数のシナリオがあるなかで、2030年以降に革新技術の開発・実装が進まず、既存技術を中心に進展したケースを想定したのが「技術進展シナリオ」だ。

日本におけるBEVおよびPHEVの普及予測

それによると、道路部門(自動車)で利用できる電力は2040年で16テラWh、2050年で53テラWh。それゆえBEVの保有台数は2040年で261万台、2050年で1196万台に、PHEVは2040年で358万台、2050年で1686万台に制約されるだろうという。ICE(HEVを含む)の保有台数は2040年の5980万台から2050年は4407万台に下がるが、それでも必要なe-フューエルの量は2050年で176万バレル。これが前述した「ハルオニの13.5万倍」の根拠である。

「第7次」のシナリオには他に、ペロブスカイトや洋上風力で再エネ発電が増える「再エネ拡大シナリオ」、水素のコストダウンによりアンモニア・合成燃料・合成メタンなどが普及する「水素・新燃料活用シナリオ」、CO2貯留を拡大する「CCS活用シナリオ」、それらが幅広く普及する「革新技術拡大シナリオ」がある。「革新技術拡大」がベストシナリオのように思われるが、CO2排出削減はどれも2040年時点で2013年比70%減の3.7億トンと見積もられている。これら4つのどのシナリオが現実化しても大丈夫というわけだ。

それに対して「技術進展シナリオ」は、言わば最悪ケース。合成燃料は普及せず、2040年のCO2排出削減は56%にとどまり、2050年時点でもガス火力発電が残ってCNが実現しない。そのシナリオに基づいてICEをすべてCN化するe-フューエルの必要量を算出するのは、あまり意味あるシミュレーションとは思えない。「技術進展シナリオ」は政府も企業も避けねばならないシナリオだ。

しかし、いずれにせよBEVを大量普及させるには電力が足りないし、ICEを大量に存続させるにはe-フューエルが足りない。それは間違いないだろう。BEVとICEがどんな割合であれば、クルマのカーボンニュートラル化を実現できるのか? 産業界が消費者ニーズに応えてきた結果が地球温暖化なのだから、消費者の選択だけで最適なバランスに辿り着くとは想像しにくい。技術者たちの努力に応えるさらなる政策発動を期待したいものだ。

■参加者18名
有元生存/池田直渡/石川真禧照/大音安弘/岡崎五郎/桂伸一/菰田潔/鈴木直也/高山正寛/竹花寿実/西村直人/松田秀士/桃田健史/森川オサム/諸星陽一/山崎明/山城利公/吉田由美