はじめに/なぜ今、CN燃料なのか?
当勉強会は、エネオス次世代燃料部長であられる田中秀明さんのご挨拶から始まりました。
「自動車分野のカーボンニュートラル(CN)化に関する議論では、電動化に関する話題が注目を集めており、それらが重要な選択肢であることは言うまでもございません。一方で世界には、今後も長く使われ続けると思しき内燃機関車両が数多く存在しております。それを踏まえると、既存インフラを活用しながらCO2排出削減に貢献できる代替燃料という選択肢も重要になると考えております」。
田中さんは続けて、「しかしながら代替燃料は一般のお客様だけでなく、自動車業界の中でも十分に知られているとは言えません。合成燃料やバイオ燃料についても、それらが自動車にどう貢献するかについて正しく理解していただく機会は、まだ限られているというのが現状であると思います。そこで今回はできるだけわかりやすく、ご紹介をしたいと思います」と、当勉強会の趣旨について説明いただきました。
当勉強会の詳細については高山会員からの報告が詳しいので、当レポートではCN燃料のひとつとして注目されているバイオ燃料の現在地と、目標としている着地点に的を絞って解説します。
① CN燃料の基礎と「エネルギー密度(発熱量)」の仕組み
温暖化の抑制策として「脱炭素」や「低炭素」という言葉をよく耳にすると思いますが、その切り札として注目されているのが「CN燃料」です。結論からすると、CN燃料の一種である最新のバイオ燃料を使えば、従来の化石燃料と同等の燃焼パフォーマンスを発揮させることが可能です。ただし、燃料の種類や作り方によって「化石燃料と同等になるもの」と「少し劣ってしまうもの」、この2つに分かれます。
化石燃料と「同等」になる代表例
次世代バイオ軽油やバイオケロシン(SAF)、e-fuel(合成燃料)などが該当します。これらは化学処理によって、石油由来の燃料と「完全に同じ分子構造(炭化水素)」に作り替えられています。燃料が持つエネルギーの量(発熱量/エネルギー密度)が化石燃料と全く同じであるため、車の燃費数値や飛行機の航続距離なども100%同じパフォーマンスを発揮します。
少し「劣ってしまう」代表例
トウモロコシやサトウキビ由来のバイオエタノール燃料、あるいは廃食油や植物油由来のバイオディーゼル燃料などが該当します。これらは分子の中に「酸素」を含んでいます。酸素が含まれている分、純粋な炭化水素に比べて燃料そのものが持つエネルギー(発熱量)が、バイオエタノールで約30%、バイオディーゼルで10%〜15%ほど低くなる傾向があります。
よって理論上、純度100%のエタノール(E100)で走ると、純ガソリンに比べて燃費数値が約3割落ちるという課題が残ります。そのため現時点では、ガソリンに数%〜10%だけ混ぜる混合使用(E10など)が主流です。ドライバーが「燃費が落ちた」と感じることなく、通常に近いパフォーマンスで走れるように工夫されています。
② バイオ燃料の原料と地域・気候の多様性
バイオ燃料の原料として一般的なトウモロコシやサトウキビは、高温と強い日差しが不可欠な南国や温暖な地域向けの作物として知られています。これらは「C4植物」(植物の約85〜90%を占める一般的な米や小麦などは「C3植物」と呼ばれます)に分類され、強い日差しと高温の環境下で効率よくCO2を取り込んで光合成ができる優秀な仕組みを持っています。
サトウキビは年間を通じて気温が高い熱帯・亜熱帯地域に適しており、太い茎の中に大量の糖分を蓄えます。根元を残して収穫すると再び芽が出る「株出し栽培」ができるため、翌年も続けて収穫できる生命力を持っています。一方のトウモロコシは温暖な気候を好み、種まきからわずか3〜4ヶ月という驚異的なスピードで大きく育つのが特徴です。
では、外気温が低いシベリアや北海道、北欧といった寒冷地ではバイオ燃料の原料は育成できないのでしょうか? 答えはNOです。じつは、こうした寒い地域でも元気に育つバイオ燃料の原料はたくさん存在します。
代表格が「テンサイ」です。寒さに非常に強く北海道などで広く栽培されており、根に大量の糖分を蓄えるため効率よくバイオエタノールに加工できます。さらに、不毛な土地でも成長する多年草「ミスカンサス」や、乾燥地から寒冷地まで幅広い環境に適応する「ソルガム」、北欧やカナダで大規模に栽培される「ナタネ」などがあります。
これらは「非可食性作物」と呼ばれ、トウモロコシやサトウキビと違って食料と競合しないメリットがあります。しかし、硬い繊維質であるため分解して原料にするまでにコストや手間、エネルギーを要するという技術的課題があります。将来的にはこうした課題をクリアする技術により、多様なバイオ燃料の実用化が期待されています。
③ バイオ燃料の環境性能をLCAから考える
バイオ燃料の最大の存在理由は「地球温暖化を抑制すること」にあります。ここで重要になるのが「カーボンニュートラル」という考え方です。植物由来のバイオ燃料を燃やしたとき、科学的な原理としてはプラスマイナスゼロになりますが、ご存知のように現実世界では「完全に同じ(プラマイゼロ)」にはなりません。
ここで登場するのが「LCA」(ライフサイクルアセスメント)という考え方です。これは、原料の調達から、農機具や工場の稼働、輸送、そして最終的な廃棄・燃焼に至るまでに排出されるCO2の総量を計算する手法です。
たとえば、トウモロコシから作るバイオエタノールは主成分がデンプンであるため、一度熱をかけて糖に分解する前処理に多くのエネルギーを消費します。また、多量の窒素肥料を製造・散布する必要があるため、実際のCO2削減効果はガソリン比で約20%〜50%程度に留まると米国環境保護庁(EPA)などから報告されています。
これに対しサトウキビは最初から糖を含み、搾りカスである「バガス」を工場のボイラーで燃やして発電や熱源に自給自足できるため、ガソリン比で70%〜80%以上のCO2削減効果を発揮するとカリフォルニア州大気資源局(CARB)が公表しています。
また環境性能を語る上で、「これからはBEV(電気自動車)が主流だからバイオ燃料は不要ではないか」という声も聴かれます。しかしBEVとバイオ燃料は「地球温暖化の抑制」に向けて適材適所で補完し合う関係にあります。乗用車の分野でBEVの普及が進む一方で、船舶や航空機、大型商用車の分野では、液体のパワーを持つバイオ燃料が今後も主役として期待されているからです。
まとめ/今後の課題と普及に向けたロードマップ
ここまでCN燃料のひとつであるバイオ燃料の優れた仕組みや最新技術を見てきました。この先、社会全体に普及させるためには主に以下の3つの壁を乗り越える必要があります。
A/「製造コストが非常に高いこと」
バイオ燃料は、原料の栽培・収穫、抽出、化学的な精製など、化石燃料の採掘・精製に比べて多くの工程やコストがかかります。また、大規模なプラントや安定的なサプライチェーンがまだ確立途上であるため、化石燃料と価格競争力で並ぶのが難しい状況です。
そこで、効率的な微細藻類の培養技術の確立や、製造工程で出る副産物の有効活用によるコストダウンに向けた技術革新が進められています。
B/「食料や土地との競合を招く恐れがあること」
トウモロコシ、サトウキビ、大豆などを原料とする場合、燃料生産のために農地が奪われることで、世界的な食料価格の高騰や食料不足を招くリスクが指摘されています。また、農地確保のための森林伐採が進むと、かえってCO2の吸収源が失われるという矛盾も問題視されます。
そのため、食用にならない廃食油や木くず、下水汚泥、あるいは食用と競合しない微細藻類などを原料とする「第2世代・第3世代バイオ燃料」へのシフトが急ピッチで進められています。
C/「圧倒的な供給量の不足」
航空機のジェット燃料(SAF)や船舶燃料、大型トラックなど、電化が難しいモビリティ分野においてCN燃料への需要は膨大ですが、現在の世界のバイオ燃料の生産量は、将来必要とされる総需要に対して圧倒的に足りていません。
これに対しては、原料の多様化だけでなく、生産プラントの大型化や異業種連携によるサプライチェーンの構築を通じて、持続可能な増産を実現できるかどうかが最大の焦点となっています。
最後に、貴重な勉強機会を提供くださったエネオスの皆さまに心より感謝申し上げます。既存インフラを活用しながらCO2排出削減に貢献できる代替燃料という選択肢がいかに重要であるのか、改めて理解を深めることができました。
| ■参加者28名(敬称略、五十音順) |
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| 会田肇/石川真禧照/内田俊一/大音安弘/岡崎五朗/加瀬幸長/片岡英明/桂伸一/菰田潔/佐藤耕一/鈴木直也/鈴木健一/高根英幸/髙橋アキラ/高山正寛/竹岡圭/萩原文博/ピーター・ライオン/藤島知子/丸山誠/桃田健史/森川オサム/諸星陽一/山崎明/山崎元裕/山城利公/山田弘樹/吉田由美 |



