ブリヂストン「タイヤ勉強会」その4

開催日:2011年6月19日
場 所:ブリヂストン プルービンググラウンド(栃木県

交通コメンテーター西村直人の「ローザ」試乗レポート

ローザ外観
写真には写っていないのですが、車体左側にある乗員乗り込み用の出入口は、他の小型バスが車体の中央付近に置くことが多い中、「ローザ」は車体の前方に取り付けられています。これにより運転席から大きく振り返らずとも、出入口の安全確認が容易に行えるようになっています。「ローザ」の特徴のひとつです。

普通自動車の評価を専門とする会員が多いA.J.A.Jですが、今回は趣旨を変え小型バスの登場です。都内からブリヂストン勉強会の会場となった栃木県黒磯市までの道のりを試乗したレポートをお届けします。

近田茂
運転を担当したのは近田茂会員(上)と西村直人会員(下)。いずれも大型第二種免許を取得。足元に伸びているのはATのシフトノブで、一見すると邪魔なようですが、実際は左手をステアリングから大きく離すことなく操作できるため非常に便利でした。ABSを全車標準装備とする一方で、運転席のエアバッグがオプション設定となっている点が惜しい部分でした。

混合交通である日本の道路には、約8,000万台の自動車がひしめき合っています。平成21年度版の交通安全白書(内閣府)によると、そのうち小型乗用自動車の台数が30.7%と一番多く、軽四輪乗用自動車(21.2%)、普通乗用自動車(21.1%)と続きます。この3車種で、じつに73.0%にあたる5,800万台以上になるのですが、今回試乗した小型バスは乗合用小型車(0.2%)に属しており少数派です。また、国土交通省が所管する道路運送車両法においては普通自動車に種別され、警察庁の所管となる道路交通法の解釈では中型自動車に分類されています。

さらに国土交通省の統計データ(最新版)によると、自家用使用ではない路線・コミュニティバスとして小型バスを分類すると、約2,100台の登録(全長7m以下のクラス)があるようです。また、小型バスはマイクロバスとも呼ばれていますがローザの製造元(生産は三菱ふそうバス製造株式会社)である三菱ふそう・トラックバス(株)としてはマイクロバスとは呼ばず、”小型バス”に名称を統一しています。

このように小型バスの枠組みは非常にややこしい部分があるのですが、どんな免許があれば運転することができるのか考えてみると立ち位置は明白になります。

’70年8月に行われた道路交通法の改正により、乗車定員11人以上の自動車の運転には大型自動車免許が必要となり、小型バスは大型自動車として扱われました。しかし、’07年6月に改正された道路交通法により、小型バスは新設された中型自動車として扱われるように変更されたのです。よって「8t限定なしの中型免許」を含む上位免許を所有していれば運転ができるようになりました。

ただし、上位免許を持っておらず「中型車は中型車(8t)に限る」と明記されている免許証では、残念ながら運転はできません。ここが厄介で、既得権で中型車のすべてが運転できると思い違いをされたままでは、レンタカー店にて小型バスを借りることができないのです。こうした方々が運転するには、上位免許を取得するか、「8t限定解除」という試験をパスする必要がありますので注意したいところです。

さて、今回の小型バス「ローザ」は三菱ふそう・トラックバス(株)のご厚意によりお借りしたものですが、いわゆる取材用に予め用意された広報車ではなく、他のセクションで連日、連絡バスとして使われている車両を無理を言ってお借りしたものです。とはいえ、車両は完璧に整備されおり、我々A.J.A.J会員が取材をさせて頂くにはベストなコンディションでした。

グレードはベーシックな「SA」。オプション品として運転席のモニターで後方確認ができる「バックアイカメラ&モニター(カラー)」と、運転席から出入口ドアの開閉操作を自動で行う「折戸扉(オート)」、さらにサイドガラスにUVカットと断熱を目的とした「濃色グレーガラス」をそれぞれ装備していました。

29人(うち補助席6人)乗りで車両重量は3,850kg(前後重量配分は51:49)。乗員をすべて合わせた車両総重量(GVW)は5,455kgと、同じく三菱ふそうの57人乗り大型観光バス「エアロクィーン」のちょうど3分の1となります。全長×全福×全高は6,990mm×2,010mm×2,645mmと堂々としたボディに4,899ccの直列4気筒DOHCインタークーラー付直噴ターボと6速ATを組み合わせています。150PS/2,700rpmの出力と45.0kgf・m/1,600rpmのトルクを発揮するのですが、これがスペックから想像ができないほどパワフルでした。A.J.A.J会員14名が乗車しエアコンをフルに稼働させつつ、首都高速道路のランプに多い急坂を駆け上がるといった高負荷領域であっても、アクセル開度を60?70%程度に深くするだけで、軽自動車(NAモデル)と同等の加速力でグングンと車体を前に押し出してくれます。おかげで流れの速かった早朝の首都高速道路への合流もスムーズに、そして安全に行えました。

小型バスに限らずバスやトラック全般に言えることですが、試乗の機会を頂いた場合、ドライバー1人だけでなく、必ずフル乗車(フル積載)モードでの運転も可能な限り行うよう心掛けています。というのも、大型トラックともなれば、自重を超える積荷を積載した状態で高速自動車国道における最高速度である80km/hを担保しなければなりません。そうしたシビアコンディションでの安全性は、自動車メーカーの安全性に対する考え方に直結する部分であると同時に、表にはあまり出てこない、しかしながら非常に大切な一面でもあるため、これからはA.J.A.J会員の一人としても積極的に発言していこうと考えています。

試乗ルートとなった東北自動車道は、先の震災の影響により部分的に道路の損傷箇所が目立っていました。懸命な復旧作業により、ボランティア活動で被災地へ往復した4月初旬の頃と比べれば、はるかに走りやすくなっているのですが、それでも路面からの外乱を受けやすい小型バスにとって運転の難易度が高まることは確かでした。加えて、走行車線はGVWで25tにも迫る大型トラックの頻繁な通行によって生み出された幅2,000mm前後のかまぼこ状の轍に、1,700mm前後のトレッドを持つ小型バスや中型トラックはハマりやすく、結果、直進安定性を低下させる要因にもなっています。「ローザ」は、こうした路面でも適度なメいなしモをもたせたステアリング特性により、ほぼ狙い通りのラインを継続することが容易で長距離走行でも身体的な負担は少なく快適でした。

80km/h走行時のエンジン回転数は約1,500rpmと最大トルクを発揮する領域とほぼ合致、さらにバスの制限速度である100km/h走行時は約2,000rpmと、いずれもエンジン常用回転域(グリーンゾーン)を使うため静粛性が高いだけでなく、空気抵抗係数0.48とキャブオーバーの箱型ボディにしては優秀である点が功を奏し、高速走行時の燃費数値は10.0km/hを大きく超える場面も多々ありました。最終的な燃費数値は437km(オドメーター換算で高速区間79.1%)を走破した結果、法定の重量車燃費基準値である7.70km/lを超える7.97km/lを記録しました。
5t近い車体(乗車人数+燃料)を考えただけでも高効率であることは明らかなのですが、さらに細かく数値を見ていくために使用した軽油を乗車人数で割ってみたところ3.91lになりました。取材を行った6月18日の週における軽油の店頭販売価格は東京で131.1円/l(財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター調べ)となりますから、東京⇔黒磯市の往復437kmに掛かった純粋な燃料代(高速代のほか、オイルやタイヤなどの消耗品代は除く)は、一人当たり約511円となります。

小型バスは、ボディが小さいだけに製造時の環境負荷も低く、移動時に排出する一人あたりのCO2も少ない乗り物です。しかも、耐久性が高く、ローコストで購入できることからスモールタウンを提唱する地方自治体からのニーズも高まってきているようです。こうした小型化への流れはバスだけでなく、航空機など公共性の高い乗り物に共通する事象ですが、今回の試乗を通じて、各人のお財布にも優しいことから、パーソナルモビリティ的な要素をもった移動体であることも証明されました。