この先の自動車を語る上で外せない「SDV」。Software Defined Vehicleの略語であり、“ソフトウェアの変更による価値や機能の向上を見越して設計・開発された車”とも定義されています。そのSDVの深淵を理解するため、ベクター・ジャパン社のご厚意によりAJAJ会員向け勉強会を開催いただきました。
SDVといっても車両製造は自動車メーカーの役割であることに変わりはなく、その意味で我々AJAJ会員は、これまで同様にハードウェアとしての工学知識を深める必要性は残ります。加えてSDVでは「SDV化」として捉えた場合、ハードウェアとソフトウェアが一体化した車両開発が進むことから、MBDについてもさらなる見識が求められるようです。
車両にはたくさんのECUが搭載されています。昨今のミディアムクラス車両で80〜100個、ハイエンドモデルでは200個を超えると言われています。そのECUは互いに通信しながら高度な車両制御を行っていますが、その通信で使われる技術のひとつとして「CAN/Controller Area Network」が有名です。
1986年にロバート・ボッシュ(独)がCANの仕様を公開したことで一気に活用が広まりました。それを境に車両の電子制御技術が高度化します。また、エンジンアウトの徹底管理が実現したことから、とくに商用車の分野では排出ガスのクリーン化が劇的に進みました。
このように通信規格が広まり活用されると、その枠組みを応用した技術開発へと発展します。よって、我々がハンドルを握る乗用車だけでなく、生産財である商用車、手軽な移動体である二輪車など、モビリティ全般が昇華されるのです。
1988年に創業したベクター社(ドイツ)は、CANを活用した車両ECU開発を担うエキスパート企業です。北米(1997年)、日本(1998年)、フランス&スウェーデン(2002年)、韓国(2007年)、イギリス&インド&中国(2009年)、オーストリア(2013年)、イタリア&南米(2014年)ルーマニア(2019年)、スペイン(2020年)と、各国に現地法人を増やしグローバル企業として発展、今に至ります。
現在、ベクター社では製品として、さまざまな車載ECU開発ツールを販売しています。その代表製品が「CANalyzer/キャナライザー」です。CANにはじまりLIM、Ethernet、FlexRay、MOSTなどさまざまな通信プロトコル用いた車載通信の測定、監視ツールとして世界中の自動車メーカーやサプライヤー企業が導入しています。
さらに、ECU開発ツールとして車両全体のシミュレーションや自動テストが行える「CANoe/キャヌー」、車載システム全体としての統合測定や適合化を行うツールとして「CANape/キャナピー」をそれぞれ製品化しています。
また、業界全体で認知・活用されている“車両の公開仕様システム”のひとつとして「AUTOSAR/オートサー」の存在がありますが、ベクター社ではAUTOSARに準拠した独自のシステムとして「MICROSAR/マイクロサー」を展開しています。
製品紹介の後、SDVについてベクター・ジャパンとしての見解をご紹介いただきました。西村個人として印象的だったのはSDVにも自動運転技術のようなレベリングが存在し、それは0〜5の6段階とSAEと同じ段階をたどることです。
さらに興味深かったのは「車両がクラウドとつながり続け、リアルタイムでアップデートが行われる」と定義付けされた最上位であるレベル5の概念です。つまりハードウェアの昇華から始まった自動車は、ECUを得てハードウェア×ソフトウェアの二次元に、さらにSDV化によりハードウェア×ソフトウェア×クラウドの三次元になるわけです。
ところでGoogleでは、抱える複数の分割化されたサーバーが膨大な電力を消費し続けており、それは止めることができないとも言われています。ソフトウェア開発会社の方に伺ったところ、クラウドを経由する検索一回で0.3Wの電力消費となり、これが指数関数ペースで増加すると仮定した場合、水と食料に次いで同時同量の電力が世界中で不足するとのことでした。
近い将来、SDVレベル5搭載車が増え続けるとなれば、各車両由来の電力消費が加速度的に増えます。SDV化は意義と意味の周知とともに、LCAでも語られることが需要で、その意味ではエコシステム構築も、SDV化本体と同時に進められるべきではないかとの感想を抱きました。
「SDV化は手段のひとつであって目的ではない」。自身も、商用車メーカーで開発ドライバーを拝命していた時期があり、常にそれを意識してきました。今回の勉強会で改めて、手段と目的を切り分けた発信が重要だと感じた次第です。

■参加者(敬称略、五十音順) 23名 |
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会田肇/有元正存/飯田裕子/太田哲也/大谷達也/大音安弘/岡崎五朗/日下部保雄/工藤貴宏/菰田潔/斎藤慎輔/佐藤久実/佐藤耕一/塩見智/高橋アキラ/高山正寛/近田茂/西村直人/藤島知子/諸星陽一/山崎明/山城利公/吉田由美 |